G. Taddei


先日、急に友達に誘われてとある演奏会に行った。

会場は聖アンジェロ城(Castel Sant'Angelo)のすぐわきにある宮殿の中のホール。若い歌手たちの発表会なのだけれど、プログラムによると主催者はBeniamino Gigli Jr.…ということは、あの往年の大歌手ジリの息子?そのせいか、お客さんたちは意外にも上品な感じの人が多かったのだけれど、何ていうか、ちょっと変な違和感を感じた。
プログラムに一通り目を通してから、改めて会場を見回してみて、あぁ、こここの建物は…、としばし言葉を失ってしまった。円柱が支える梁の部分に、たいていの場合には天使の彫刻があるべきところに、鉄兜の兵隊さんがニラミをきかせてた・・・。そして、普通なら聖書や歴史上のエピソードが描かれていそうなフレスコ画は軍隊行進と、それに敬礼している民衆・労働者の図。さらによく観てみると、群衆の敬礼を集めている中央に描かれているのは、乗り物からヘルメットしか見えていない人物。これは明らかにムッソリーニを想像させる。しかもさらに、その隊列の最後尾、写真の一番右側に描かれている、ちょっと列からはみ出ている挙動不振な兵隊さんの顔をよく見ると、きれいになでつけられた髪型・半開きのたれ目・鼻の下だけのちょびひげ…、これは明らかにヒトラー(ケイタイカメラしか持ってなかったのが残念!)。。。ということはぶら下がっている数々の旗は枢軸国の…と思いきや日の丸は見当たらず(なくてほっとした。同行の友人たちは韓国人)。
イタリアはこういうのも平気で残しとくんだなぁ、と、変な感慨にふけっていると司会者がでてきて挨拶を始めた。
会の趣旨(親のいない子供たちへのチャリティー)の説明のあと、特別招待客の紹介があった。プログラムとにらめっこしていたので一人目の名前は聞き逃したが、二人目にはガブリエラ・トゥッチ(Gabriela Tucci)という有名な老ソプラノが紹介されていて、オォウ、と感動した。となりの友人に「きいた?トゥッチだって」ときくと「タッデーイとも言ってたよねぇ…」と自信なさげに答えた。と、最初の歌手が現れて、「妙なる調和」を歌い出した。なかなかうまかった。
・・・そして歌い終わり、真っ先に「BRAVO!」と、独特な早くて柔軟な巻き舌で叫んだ最前列の老人の声!!
日頃CDできき覚えている、あの声とまったく同じ声!
もう90近いのにあの、会場中にきれいに響き渡る声!
まさに、ローマに来てからずっと憧れ続けてきたGiuseppe Taddeiだった!!
その瞬間からマエストロの後ろ姿、一挙一動から目が離せなくなってしまった。それぞれの歌い手たちに身を乗り出して聴き入り、なにかあるとすぐ、隣のトゥッチに話しかける。そして気に入った歌手には大きな声で「BRAVO!」。

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